寄与分制度とは?相場は?計算方法から注意点まで解説します!
遺言で相続財産の贈り先が決められていない場合、法定相続分によって遺産を分割するのが一般的です。
しかし他の相続人と比較して、亡くなった被相続人に対して大きな貢献をしたという自負がある場合には、法定相続分による遺産分割に違和感を覚えるケースもあるかもしれません。
そのようなときに考えるべき制度が「寄与分」です。
被相続人の財産の維持や増加に関して特別な寄与があった場合、「その貢献度合いに応じて遺産を分けましょう」という仕組みといえば分かりやすいでしょう。
今回はこの寄与分について、制度の仕組みや注意点を詳しく解説していきます。
寄与分とは?
親が亡くなり、兄弟と遺産相続の話をしなければなりません。
私は同居していたので、自宅をバリアフリーにリフォームしたりと何かと負担が多く、できれば少し多めに遺産をもらえないかと考えています。
特定の相続人が、被相続人の財産の増加や維持に特別な寄与をした場合、その分を主張することができる「寄与分」という仕組みがあります。
今回のケースは、寄与分に該当する可能性があるでしょう。
財産の増加や維持に寄与した程度
寄与分とは、民法第904条の2に定められた制度です。
被相続人の生前、財産の維持や増加に関して特別な貢献をした場合に、その程度に応じた金額を請求できるという仕組みです。
法律に規定されているのは下記の通りで、この程度に応じた金額を請求することができるとされています。
- 「被相続人の事業に関する労務の提供」
- 「財産上の給付」
- 「被相続人の療養看護」
寄与分に相場ってある?
そもそも遺産の分割では、共同相続人が割合を自由に決めることができます。
遺言によって遺贈先とされた人も遺贈を放棄することができますし、法定相続分とは異なる割合で分割することも可能です。もちろん相続放棄も自由です。
しかし、すべての相続が円滑にまとまるとは限らないでしょう。調停や審判の場で寄与の金額を算定しなければならないケースも考えられます。
このような場合、寄与を主張する相続人が実際に拠出した金額や、労務の提供などに対して給与として換算した金額などをベースに算出するのが通常です。
ただし、家族としての扶養義務や互助義務に相当すると考えられる金額は差し引いて、「特別な貢献」といえる部分を寄与分に計上します。
寄与分を主張できる人は誰?
寄与分というのは誰でももらえるものなのですか?
例えば「隣人」とか・・・
寄与分を主張できるのは「相続人」に限られます。複数の相続人がいる中で、故人に対して「特別な貢献」をした人に認められる仕組みです。
寄与分の請求権者
寄与分を主張できるのはあくまでも相続人に限られます。
遺産を共同相続人で分割する際に、「特別な貢献」を理由に他の相続人よりも多く受け取ることを主張できるというのが寄与分の仕組みです。
これと似た制度で「特別寄与料」という制度がありますが、これは相続人以外の親族に認められるもので、寄与分とは異なりますので注意しましょう。
「特別寄与料」制度の新設
2019年の民法改正で、新たに設けられたのが「特別寄与料」の制度です。
相続人に認められるのが寄与分、相続人以外の親族に認められるのが特別寄与料です。
寄与分が認められる要件とは?
兄弟のうち私一人が同居して面倒を見ていたのですが、それも特別な寄与といえるのでしょうか?
寄与分が認められるためには、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与があったことが必要です。
行為と財産の増加における因果関係や、「特別な寄与」といえる行為かどうかがポイントとなります。
特別な寄与と考えられる行為を類型化して説明します。
事業従事型
被相続人の事業を手伝っていた場合などがこれに当たります。
例えば「本業を持ちながら、週末には家業を手伝っていた」などが分かりやすいでしょう。
原則として「無償で労務を提供していた場合」や「少額の報酬を得たが、それと比較して特別大きな財産の増加をもたらした場合」などが該当します。
被相続人の経営する会社に従業員として勤務していたような場合は、特別な貢献には当たりません。
金銭等出資型
被相続人に対する金銭の出資なども特別な寄与と考えられます。
例えば「被相続人が住んでいた家をバリアフリー化するため、1,000万円のリフォーム費用を拠出した」などが分かりやすいでしょう。
このほかにも「自分が所有する土地を被相続人に無償で貸していた」「被相続人の借金を肩代わりした」なども該当する可能性が高いケースです。
療養看護型
被相続人を看護・介護したなどの場合がこれに当たります。
ただし気を付けなければならないのは、民法には親族間の扶養義務や互助義務などの規定があることです。
そもそも配偶者や親子という関係であれば、一般的に考えられる介護などでは必ずしも特別な貢献と認められるとは言い切れません。
基準となるのはヘルパーなどに依頼した場合に要する費用ですが、家族としての義務の部分は考慮されることも覚えておきましょう。
扶養型
被相続人の生活費を支援していた場合なども特別な寄与と認められる可能性があります。
ただし一般的な「扶養義務の範囲を超えているか」という点がポイントとなるでしょう。
「特定の相続人だけが毎月の生活費を仕送りしていた」などの場合には、相続財産の増加・維持への貢献として認められる可能性があります。
財産管理型
被相続人が所有する不動産の売却を行ったことで大きな利益を得たなど、特定の相続人の行為によって相続財産が増加したようなケースも寄与分が認められる可能性がある事例です。
また「被相続人が所有するアパートの管理を行っていたことで、相続財産の価値の低下を防いだ」なども特別な寄与といえるでしょう。
寄与分がある場合の計算方法
特定の相続人に「寄与分」が認められた場合、まずはその相続人が寄与分に相当する金額を受け取り、残る相続財産を法定相続分で分けます。
例えば長男と次男の2人が相続人で、遺産が1,000万円あったと仮定します。
長男に300万円の寄与分がある場合、兄弟で分割する相続財産は700万円、寄与分として長男が取得する金額が300万円です。
これにより、長男が相続分350万円と寄与分300万円の650万円、次男が相続分350万円を受け取る計算になります。
- 1,000万円(遺産総額)-300万円(寄与分)=700万円
- 700万円÷2=350万円(1人当たりの相続財産)
- 長男:350万円+300万円=650万円
- 次男:350万円
寄与分を要求するときの注意点
兄弟とは円満な関係なのですが、やはりお金のことは言い出しにくいです。遺産分割するうえで、寄与分を定めるルールはあるのでしょうか?
残念ながら寄与分に関しては、「法定相続分」のような目安はありません。あくまでもご自身で主張して話し合う必要があります。
自分から主張する必要がある
被相続人が遺言で財産の贈り先を指定していた場合を除いては、相続人全員で行う遺産分割協議で分割する割合などを話し合います。
寄与分がある場合、話し合いの中でこれを主張しなければなりません。
遺産は必ずしも法定相続分で分割しなければいけないわけではないのです。
寄与分という制度も同様に、「特別な貢献をした人には必ず寄与分を渡さなければならない」という仕組みではありません。
相続財産にある「自分が行った貢献によって存在する価値」を示して、その分をもらえるように話し合う必要があります。
寄与分は遺言で指定できない
特別に多くの財産を贈りたい相続人がいる場合には、遺言書に遺贈の意思を示すなどの方法を取る必要があります。
ただし、遺贈の場合には他の相続人の遺留分を侵害することはできません。
「ずっと面倒を見てくれた長男にすべての遺産を贈りたい」と希望したとしても、他の相続人の遺留分について考慮することも大切です。
遺贈が優先される
相続財産の贈り先は、法定相続分よりも遺言が優先されます。
寄与分も同様に相続財産の中から請求できるものに過ぎませんから、遺贈が優先されることを覚えておきましょう。
死因贈与(贈与者が死亡した時点で、事前に指定した財産を受贈者に贈与するという贈与契約)も同様の扱いです。
遺贈によって遺留分を侵害された場合には「遺留分侵害額請求」という権利を行使することができますが、寄与分を上乗せすることはできません。
しっかり準備して寄与分を認めてもらおう
寄与分という制度は、特定の相続人の貢献に応じて遺産の配分を多くする仕組みともいえます。
貢献の程度を金額で示す必要があることや、他の相続人とのバランスの問題から、相続人同士でのトラブルを生む恐れも少なくありません。
寄与分を主張する際には、明確な数値や根拠を用意するだけでなく、「円満な話し合いで解決する」というスタンスを常に意識することが望ましいでしょう。