特別受益の持ち戻しとは?適用対象から具体的な計算方法まで紹介!
相続が発生した場合、遺言書などで遺産分割の方法が示されていればそれに従い、そうでなければ法定相続分の割合を基礎として協議をするのが一般的です。
しかし、故人が一部の相続人だけに対して多額の生前贈与をしていた場合などは、遺産を平等に分割することが逆に不公平感を生む可能性もあるでしょう。
特定の相続人だけに遺贈があった場合なども同様です。
このようなケースで公平な遺産分割をするために、生前贈与や遺贈の額を考慮して相続財産を計算しなおす仕組みが「特別受益の持ち戻し」です。
特別受益は遺産分割において争いの火種になりがちなもの!
そこで今回は、特別受益の持ち戻しの適用対象から相続財産の具体的な計算方法までを詳しく解説していきます。
特別受益の持ち戻しとは?
将来私が亡くなったときに備えて、そろそろ遺産についても考えていこうと思っています。
できるだけ家族がトラブルにならないようにしたいのですが、注意すべきポイントなどはありますか?
遺産分割の注意点はさまざまですが、過去の贈与が原因のトラブルは比較的多い事例です。
遺贈や生前贈与など特定の相続人だけの特別な利益に関してはしっかりと考慮する必要がありますから、特別受益の持ち戻しについて説明していきましょう。
特別受益の制度
特別受益とは、一部の相続人だけが受ける遺贈や生前に受けた贈与など、特別な利益を指してこう呼びます。
例えば2人兄弟の相続人がいて、長男だけが結婚費用や住宅購入費用を援助してもらっていたのに対して、結婚をしていない次男はこれらの費用を全く受け取っていなかったとします。
その状態で相続が発生したら、相続財産を二等分するのはいささか不公平といえるでしょう。
このようなケースを想定して、先に受け取っていたお金を「遺産の先渡しを受けた」と解釈するのが特別受益の制度です。
特別受益者の範囲
特別受益者として持ち戻しが考慮されるのは「相続人」です。
相続人間での不公平をなくすという制度の目的から考えれば分かりやすいでしょう。このため相続放棄をした場合なども特別受益者には含まれません。
特別受益がある場合の計算方法
特別受益がある場合には、まず特別受益の金額を相続財産に加算して総額を算出します。
これが遺産分割の基礎となる金額です。
相続税の対象となる相続財産とは異なることに注意しましょう。
この金額を基に、それぞれの相続人の受け取る財産の額を計算します。
特別受益の対象になる主な生前贈与
子供達にはなるべく平等にしてきたつもりなのですが、特別受益と判断されるのはどのような贈与なのでしょう?
特別受益と判断される生前贈与は「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与」とされています。
少し難しい表現ですが、一部の相続人にだけ結婚資金を援助したとか、住宅購入資金を援助したとか、相続のバランスを崩すような特別な贈与が対象となります。
生活費の援助
被相続人が扶養義務者、つまり相続人を養う責任を負う立場であるのなら、通常の範囲内で生活費を支出したとしても特別受益には当たりません。
ただし、通常の生活費を大きく上回るような多額の贈与があった場合には、特別受益と判断される可能性もあるでしょう。
養子縁組のための贈与
養子縁組には、実親との親子関係を継続しつつ養親との親子関係を生じさせる普通養子縁組と、実親との親子関係を解消して新たに養親との親子関係を生じさせる特別養子縁組の2種類があります。
普通養子縁組 | 実親との親子関係を継続しつつ養親との親子関係を生じさせる |
特別養子縁組 | 実親との親子関係を解消して新たに養親との親子関係を生じさせる |
普通養子縁組で、実親が持参金を贈与したケースなどは特別受益と判断される可能性が高いといえます。
借金の肩代わり
相続人が負っていた借金を被相続人が肩代わりして支払った場合なども特別受益と判断され得る事例です。
不動産の贈与
不動産を贈与した場合などは、「生計の資本」の贈与に当たるため、特別受益と判断されます。
土地・建物の贈与だけでなく、住宅の購入資金を贈与した場合も同様に判断される可能性が高いケースです。
不動産の無償使用
不動産の無償使用では、被相続人が所有する建物を無償使用していたか、被相続人の土地の上に相続人が建物を建てて所有したかで判断が分かれます。
車の贈与
自動車も「生計の資本」と考えられる贈与で、高額である場合には特別受益に該当する可能性が高いでしょう。
学資の援助
教育に関わる資金で、通常の扶養の範囲内と考えられる金額であれば特別受益には当たりません。
ただし「1人だけ私立大学の医学部に進学し多額の学費を要した」など相続人の間で著しい格差が生じた場合には、個別に判断される可能性もあるでしょう。
生命保険金
生命保険金は税制上は「みなし相続財産」とされていますが、保険契約に基づく受取人固有の財産であるため特別受益ではないと考えるのが一般的です。
ただし、全体の相続財産と比較して保険金の額が著しく大きく不公平感が顕著な場合などには、特別受益とされる可能性があります。
死亡退職金
死亡退職金はその趣旨によって判断が分かれます。
死亡退職金の趣旨や金額によって個別に判断することになります。
遺族給付金
遺族給付金は「遺族の生活保障」という趣旨のお金であるため、特別受益には当たらないと考えるのが通常です。
特別受益の持ち戻し免除とは?
特別受益がある場合には、必ず持ち戻しをしなければならないのでしょうか?そ
れでは相続人に対しては、遺贈などもあまり効果がなくなってしまうような気がします。
特別受益の持ち戻しは「必ずしなければならない」という制度ではありません。
被相続人の意思が尊重される仕組みですから、免除の意思表示をすることも可能です。
明示の意思表示
遺産の分割に際しては、できるだけ故人の遺志が尊重される仕組みとなっています。
「特別受益の持ち戻し」という制度もあくまでも原則論で、被相続人が遺言書などで「持ち戻しをしない」という意思表示していた場合には持ち戻しが免除されます。
これが明示の意思表示です。
黙示の意思表示
持ち戻し免除の意思表示は、「明確には示していないものの、被相続人がこう考えていたと推測される」ケース、つまり黙示でもよいとされています。
2019年の相続法改正では、持ち戻し免除の推定規定が設けられました。
婚姻期間が20年以上の配偶者間で居住用不動産が遺贈・贈与された場合には、遺言書などでの意思表示がなくても持ち戻し免除の意思表示が推定されると規定されています。
持ち戻し免除と遺留分の関係
遺留分とは、配偶者や子どもなど特定の相続人に対して設けられた、受け取ることができる財産の最低保障といえる規定です。
遺言書などで法定相続分以外の遺産分割が示されていたとしても、遺留分を持つ相続人はその金額を請求することができます。
特別受益の持ち戻しが免除された場合でも遺留分を侵害することは原則としてできません。
また遺留分を算出する際には、特別受益を相続財産に含めて計算することに注意しましょう。
なお遺留分の算定に際して考慮する特別受益は、遺贈または相続開始前10年以内の贈与に限られます。
特別受益に関するよくある質問
さらに特別受益の持ち戻しに関するよくある質問をチェックして、疑問点を解消しておきましょう。
特別受益の評価時点は相続開始時と定められています。贈与を受けた時点での評価額ではないことに注意が必要です。
例えば相続人の1人が10年前に2,000万円相当の住宅を贈与されたとしても、相続開始時点での評価額が1,000万円であれば特別受益として相続財産に算入する価格は1,000万円ということになります。
特別受益には時効がありません。何年前、何十年前に行われた贈与であっても、さかのぼって相続財産に含めることができます。
ただし前述した通り、遺留分の算定の際に考慮すべき特別受益は、相続開始前10年以内のものです。
生前に多くの贈与を受けていた場合などでは、特別受益の持ち戻しを行うことで相続分がマイナスになる可能性が生じます。
この場合、新たに遺産を相続することはできませんが、特別受益に当たる贈与分を返す必要はありません。
ただし、特別受益が原因で他の相続人の遺留分を侵害していた場合には、遺留分侵害額請求によって金銭の支払い義務を負う可能性は否めません。
特別受益の持ち戻しまとめ
生前贈与や遺贈による遺産分割の不公平を解消しようというのが「特別受益の持ち戻し」という制度であり、考え方は極めてシンプルです。
しかし、どのような贈与が特別受益に当たるか否かはすべてに明確に基準があるわけではなく、個別に判断が必要となるケースも少なくないでしょう。
相続人全員が持ち戻しに納得すれば良いですが、そこで争いが生じる可能性も否めません。
円滑に遺産分割を進めるためにも、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。