【相続税の障害者控除】申告不要?適用要件と注意点まとめ
相続税には、相続人の生活を守るため、配偶者控除を始めとするさまざまな軽減措置が設けられています。
「障害者控除」もその一つ。障害を持つ人が生活していくうえで、相続財産の必要性は健常者よりも高い可能性があるでしょう。
このような背景から生まれたのが障害者控除という特例です。
では、どのような場合に障害者控除が適用されるのでしょう?
相続税で障害者控除の適用を受けるための要件や注意点について、詳しく解説していきます!
相続税の障害者控除とは?
私には障害を持つ子どもがいるので、できるだけ多くの財産を残してあげたいと思っています。何か良い方法はあるでしょうか?
相続税には、障害を持つ人の生活を保護するための特例が設けられています。
計算の基礎となる相続財産の額ではなく、相続税そのものの額が控除される仕組みのため、大きな効果が望めるのが特徴です。
概要
障害者控除は、障害者が相続人となった際に、障害の等級や年齢に応じて相続税が軽減される制度です。
障害を持つ人が生活するうえで、被相続人の財産が原資となっていたようなケースは少なくないでしょう。
相続税の負担が大きければ、障害者の生活に悪影響を及ぼす可能性が生じてしまいます。
障害者控除はそのようなケースを想定して、障害者の生活を守るために設けられた仕組みなのです。
必要書類
具体的には、障害者手帳のコピーなどがこれに当たります。
- 相続税申告書第6表「未成年者控除額・障害者控除額の計算書」
- 適用要件を満たすことを証明する書類(障害者手帳のコピーなど)
相続税の障害者控除の要件
相続人に障害者がいれば自動的に控除されるのでしょうか?どのような場合に障害者控除が適用されるのか教えてください。
相続税の障害者控除の適用要件は、国税庁が明確に定めています。具体的な項目を説明しましょう。
相続や遺贈によって財産を取得している
障害者控除の適用を受けるためには、障害を持つ相続人が相続または遺贈により財産を取得していることが必須です。
つまり、障害者が相続放棄をして財産を一切受け取っていない場合などは適用を受けることができません。
現実的な問題として、障害者本人の「資産を管理する能力」に不安があり、その人を扶養する家族が遺産相続をする方が合理的というケースもあるでしょう。
そのような場合でも、障害者本人がいくらかでも財産を相続するか、遺贈を受けなければならないのです。
財産を取得した人が法定相続人である
相続税の障害者控除を受けられるのは法定相続人に限られます。
つまり、法定相続人以外の人が遺贈によって財産を取得したケースでは、たとえ障害者であっても控除を受けることができません。
また、「相続放棄をした場合であっても法定相続人の要件を満たす」とされていることも覚えておきましょう。
一例を挙げれば、「障害者である法定相続人が相続放棄をして民法上の相続人でなくなったが、生命保険金などのみなし相続財産を受け取った」などの場合も障害者控除は受けられます。
財産を取得した時点で住所が日本国内にある
ただし、その相続人が一時居住者で、なおかつ故人が一時居住被相続人または非居住被相続人である場合には、障害者控除の適用を受けることができます。
財産を取得した時点で障害者である
障害者控除の適用を受ける要件には、「相続によって財産を取得した時点で障害者であること」という項目があります。
原則的には、身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳など、いわゆる障害者手帳の交付を受けている人が当てはまります。
障害者であるか否かの判断は障害者手帳以外にも、都道府県などが発行する療育手帳などがありますが、いずれも相続開始日の状況で判断するのが原則です。
障害の範囲
障害者といっても、障害の内容や程度は人それぞれだと思います。そのような規定も定められているのでしょうか?
障害者控除が適用されるのは、『85歳未満の障害者』と規定されています。
さらに障害の内容や程度によって一般障害者と特別障害者に分かれていますから、それぞれの内容を説明していきましょう。
一般障害者
一般障害者か特別障害者かの判断は、障害の等級などによって決まります。特別障害者は、「より重い障害を持った人」が該当するのです。
一般障害者の1年あたりの控除額の基準は10万円とされています。
一般障害者と認められる主な範囲は以下の通りです。
- 児童相談所や知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医などの判定により知的障害者とされた人(重度の知的障害者以外)
- 精神障害者保健福祉手帳に障害等級2級または3級の記載がある者
- 身体障害者手帳に障害等級3級~6級の記載がある者
このほか、戦傷病者手帳の交付を受けている人や障害者に準ずるとして市区町村長の認定を受けた人などが該当します。
特別障害者
特別障害者は、一般障害者よりも重い障害を持った人が対象となります。
特別障害者と認められる主な範囲は以下の通りです。
- 児童相談所や知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医などの判定により「重度の」知的障害者とされた者
- 精神障害者保健福祉手帳に障害等級1級の記載がある者
- 身体障害者手帳に障害等級1級または2級の記載がある者
- 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者
このほか一般障害者と同様に、戦傷病者手帳や市区町村長の認定によって該当するケースもありますが、いずれも一般障害者よりも重い障害が基準とされています。
相続税の障害者控除の計算方法
具体的には、どのような計算で相続税が軽減されるのでしょうか?
障害を持つ相続人が満85歳になるまでの年数と、1年あたりの控除の基準額を掛けて計算します。詳しく説明していきましょう。
控除額
障害者控除の額は、障害を持つ相続人が満85歳になるまでの年数で計算します。
一般障害者は1年につき10万円、特別障害者は1年につき20万円で、年数を掛けた金額が控除額です。
「1年未満の期間があるときは切り上げて1年として計算」との規定があるため、単純に85から年齢を引けば問題ありません。
障害者控除の金額=(85-相続開始日の年齢)×10万円または20万円
控除しきれない場合
上記の計算式で算出した控除額が、相続税額より大きくなるケースもあるでしょう。
このように控除額の全額が使い切れないケースでは、引ききれなかった控除額を障害者の扶養義務者の相続税額から差し引くことができるのです。
扶養義務者とは、配偶者や親や子などの直系血族、兄弟姉妹などのほか、家庭裁判所が扶養義務を負わせた3親等内の親族などが該当します。
2回目の障害者控除の適用を受ける場合
同じ障害者が2回以上の相続をした場合、それぞれの相続で障害者控除の適用を受けることができます。
しかし、過去に障害者控除の適用を受けていると、2回目の控除額には制限がかかることに注意が必要です。
具体的には、「前回の相続で控除しきれなかった金額が上限となる」と覚えておきましょう。
したがって、過去の相続で障害者控除の全額を控除している場合は2回目の適用を受けることはできません。
より正確に記載すると、次の二つの計算式で求めた金額のうち、低い金額が適用されます。
①2回目の控除額の計算式
(85-相続開始日の年齢)×10万円または20万円
②前回の相続で控除しきれなかった金額
(85-前回の控除時の年齢×10万円または20万円-前回の障害者控除の金額
なお、前回の障害者控除の金額には、扶養義務者から控除した金額も含まれます。
相続税の障害者控除を利用するときのポイント
障害者控除を受けられれば、大きな効果が見込めそうなことが分かりました。
実際に相続が発生した場合、注意すべきポイントなどはありますか?
障害者控除には、他の相続税の特例などとは異なった特徴がいくつかあります。利用の際にはその点を理解しておきましょう。
障害者控除の判定時期
障害者控除が適用されるか否かは、原則として相続開始日の現況によって判定します。
ただし、相続開始日時点ではまだ障害者手帳の交付を受けていないなど障害者に該当しない場合であっても、一定要件に該当するケースでは適用対象になる可能性があるのです。
例えば障害者手帳の交付を申請中である場合や、医師の診断書により手帳に記載される程度の障害があると認められる場合にも、適用対象とされています。
相続税が0の場合は申告不要
障害者控除を適用した結果、税額がゼロになる場合には相続税の申告は必要ありません。
ただし、控除しきれなかった税額を2回目以降の相続で控除しようとした場合には要注意です!
たとえ申告が不要であっても、必ず控除額をしっかりと計算し把握しておかなければなりません。
でなければ、次の相続での控除額が適正に算出できない恐れが生じてしまいます。
控除しきれなかった障害者控除を二次相続以降で利用する見込みがある場合には、あえて申告書を作成しておくことも有意義な方法です。
相続税の障害者控除に関するよくある質問
相続税の障害者控除では、『要介護認定は適用されない』ことなどにも要注意です!
よくある質問をチェックして、さらに理解を深めておきましょう。
要介護認定を受けた人も生活の保護が必要であるとはいえ、原則として障害者控除は適用されません。
控除の対象となるのは所得税法施行令第10条に限定列挙された要件に該当する場合のみとされ、要介護認定はこの中に記載されていないためです。
ただし、限定列挙された要件には「精神または身体に障害のある65歳以上の人で、障害の程度が知的障害者または身体障害者に準ずるものとして市町村長等の認定を受けた場合」との項目があります。
つまり、市町村に対して障害者控除対象者認定を申請することで、これが認められた場合には障害者控除を受けることができるのです。
相続人が成年被後見人である場合は、特別障害者として控除の適用を受けることができます。
後見開始の審判を受けたということは、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」に該当することを意味しています。
このことから、税法上でも障害者控除の特別障害者に当てはまるのです。
遺産分割協議が完了していない場合でも、障害者控除の適用は可能です。
障害者控除の適用を受ける際には、遺産分割の完了が要件とされていないためです。
しかし大きな節税効果を持つ特例は、障害者控除以外にも数多く存在します。
その中には、小規模宅地等の特例や配偶者控除など、遺産分割の完了が要件とされているものも少なくありません。
この場合の未分割申告には「申告期限後3年以内の分割見込書」などの提出が必要になりますから、税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。
障害者控除の対象は身体の障害だけに留まりません。精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている場合も、もちろん控除対象です。
障害等級が1級の場合には特別障害者、2級・3級の場合は一般障害者に該当します。
相続税の障害者控除まとめ
相続税の障害者控除は、「税額控除」という仕組みを採用した、大きな節税効果が望める特例です。
一方で、適用の要件や計算には専門的な知識が不可欠で、特に2回目の相続が発生した場合にはより複雑な計算が求められます。
適用の要件や控除額の計算に不安がある場合には、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。