贈与税

【贈与契約書】生前贈与の現金手渡しはOK?税務署に否認されない対処法

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贈与税の基礎控除額を利用して生前から資産を被相続人に移し相続財産を少なくする「生前贈与」は、メリットの大きな相続税対策の一つとして広く知られた手法です。

しかし、押さえるべきポイントを理解せずにやみくもに財産を移せば、正当な生前贈与とは認められない恐れがあるでしょう。

そこでこの記事では、生前贈与を税務署に否認されずにしっかりと節税をするための注意点や対処法を解説します。

生前贈与で現金手渡しは問題ない?

結論から述べると、現金手渡しでの生前贈与はおすすめできる方法ではありません。

なぜなら、現金の手渡しではお金の流れの記録が残らないため、それが贈与であることの証拠を第三者に示すことができないからです。

現金渡しも税務署に把握される

「記録が残らないのであれば、そもそもお金を渡したことも分からないのでは?」そう考える人もいるかもしれません。

しかし、税務調査では銀行口座の取引履歴を開示することも可能であるため、資金移動の実態を把握することは容易です。

親から子へ現金で贈与した場合には、親の口座から引き出されたお金が子の口座に入金されたり、何らかの資産の購入資金に充てられたりした痕跡が残ります。

税務署の職員には調査権限があるので、生前贈与の事実を把握することも可能になります。

贈与税の課税対象とは

贈与税の課税対象は、「個人から個人に対して贈与された財産」です。

現金はもちろん、不動産などの現物資産に関しても同様に課税対象となり、市場価格相当の金額に換算されたうえで決められた税率により算出されます。

一方で、同じ贈与でも法人から贈られた場合は贈与税の対象外です。

上記の場合には、所得税や住民税が課せられることになります。

暦年贈与が認められないことがある

暦年で110万円以内であれば贈与税がかからないとはいうものの、一定のケースでは暦年贈与であると認められない可能性も低くはありません。

例えば1,000万円を10年に分け、毎年100万円ずつ贈与したとします。この場合は110万円以内の贈与ですから、非課税であると考えがちです。

しかし、このようなケースでは「1,000万円を10年間にわたって100万円ずつに分割して贈与する」という定期金給付契約を結んだと判断され、贈与の初年度に1,000万円から基礎控除額を除いた890万円が課税対象となる可能性があります。

後ほど詳しく解説しますが、毎年契約書を作成するなどの工夫が必要です。

贈与税不払いのペナルティ

本来課税されるべき贈与税を支払わなかった場合、無申告加算税や延滞税、重加算税などの附帯税というペナルティが生じる可能性があります。

無申告加算税

無申告加算税は申告をしなかった場合に課せられる税金。納付すべき税額に対して50万円までは15%、50万円を超える部分は20%の割合で計算されます。

本来の税額よりも少なく申告した場合には過少申告加算税、意図的に資産を隠ぺいした脱税など悪質な場合に課せられるのが重加算税です。

納税期限に間に合わず遅れて納付した場合には、延滞税が課されます。

生前贈与を現金手渡しにするやり方

現金手渡しで生前贈与をする場合、それが生前贈与であることをできるだけ明確に示すことが後々のトラブルを回避する秘訣です。

下記の項目を参考に、対応策を考えておきましょう。

贈与契約書を作成する

贈与自体は贈与者と受贈者がその意思を示すことで成立する行為ですが、それを第三者に明らかにするためには贈与契約書を作成するのがおすすめ。

特にお金の移動の履歴が明確に記録されない現金手渡しの場合には、贈与する金額や日付などを契約書に正確に記載することが大切です。

110万円以上の贈与には贈与税が課されるため確定申告が必要になりますが、その場合でも契約書を作成しておけばスムーズに申告することができます。

定期贈与とみなされないようにする

暦年での贈与額の基礎控除は110万円と定められていますが、特定の場合には定期贈与と判断される恐れがあるでしょう。

定期贈与

定期贈与とは「事前に取り決めた金額を一定期間にわたって継続して贈与する」との契約で、先に挙げた「1,000万円を10年に分け、毎年100万円ずつ贈与する」などがこれに当たり、最初の100万円の贈与の時点で実質的に1,000万円の贈与が発生したとみなされます。

定期贈与と判断されないためには贈与ごとに契約書を作成するなど、一つ一つの贈与が個別の法律行為であることを明示しましょう。

死亡3年以内の贈与は相続税の課税対象

ポイントを押さえて生前贈与を実行したとしても、相続が発生した時点から遡って3年以内の贈与に関しては、一律で相続財産とみなされます。

これは贈与契約書の有無や入金方法などにかかわらず、期間内に発生した全ての贈与に適用される決まりです。

ただし、贈与された時点で贈与税を納めている場合には、その贈与税額を相続税から控除することができます。

贈与契約書を作成するときの注意点

贈与税対策、相続税対策として贈与契約書の作成を考えた場合、いくつかの注意すべき項目が存在します。

第三者が見て贈与の内容を正確に把握できる書面を作成することがポイントです。

贈与契約書に必要な項目

贈与契約書には特定の様式はなく、贈与の内容が分かりやすく記されていれば問題はありません。

以下の項目を記載して、贈与する人・贈与を受ける人双方が署名、捺印をすることが大切です。

  • 贈与者が誰で、受贈者が誰か
  • 贈与する金額
  • 贈与する日付
  • 給付の方法
  • 贈与に関する条件がある場合はその内容

上記の内容を記載した書面に、贈与者・受贈者の住所・氏名を記入する欄、押印欄などを設ければOKです。

署名と日付は自筆で記入する

贈与者・受贈者がそれぞれの意思で贈与契約を締結したことを明確に示すため、署名と日付は自筆で記入することが望ましいでしょう。

捺印に関しても実印を用い、印鑑証明書を添付すれば、本人の意思であることを第三者に対して顕示する効果は高まります。

非課税枠を活用して相続税対策できる

法定相続人となる特定の間柄では、暦年贈与以外にも非課税とされるさまざまな特例が設けられています。

これらを活用すれば、さらに効果的な相続税対策を講じることも可能です。

住宅取得資金贈与の特例

自己居住用の住宅を取得するために親や祖父母などの直系尊属から贈与を受ける場合、一定の条件を満たせば贈与税が非課税となる特例が設けられています。

時限措置として定められた「住宅取得資金の贈与の特例」と呼ばれる制度です。

取得する住宅が耐震性能や省エネ性能など一定の要件を満たしたものであれば1,000万円まで、それ以外の一般の住宅であれば500万円までの贈与が非課税とされ、暦年贈与の基礎控除額110万円と併用することもできます。

ただし暦年贈与の非課税とは異なり、この制度を利用するためには確定申告が必要であることに注意しましょう。

特例を受けるためには取得する住宅や受贈者の収入などに要件が定められているため、国税庁のHP「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」で確認することをおすすめします。

結婚・子育て資金の一括贈与の特例

特例(結婚・子育て資金)

結婚・子育て資金の一括贈与の特例とは、親や祖父母などの直系尊属が18歳以上50歳未満の子や孫に対して、結婚や出産、子育てに要する資金を贈与した場合に1,000万円(結婚費用に関しては300万円)までが非課税となる特例制度です。

こちらも令和5年3月31日までの時限措置として運用されています。

特例を受けるためには、贈与契約を結んだうえで贈与金を管理する専用の口座を開設するなど、特例に基づく贈与金であることを明らかにすることが必要です。

また贈与者が亡くなった場合には、その時点で非課税となる効果が消滅することにも注意しましょう。

相続時に口座に残っていた資金は相続税の対象となるほか、受贈者が50歳に達した時点では贈与税の課税対象とみなされます。

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教育資金一括贈与の特例

特例(教育資金)

教育資金一括贈与の特例とは、30歳未満の子や孫に対して教育資金を贈与した場合、1人につき1,500万円までが非課税とされる制度です。

この特例も時限措置で、令和5年3月31日まで延長されています。

この特例も時限措置で、令和5年3月31日まで延長されています。

基本的には学校に支払う授業料や入学金などが対象となりますが、500万円までは学習塾など学校以外にかかる費用に対しても拠出することが可能です。

この特例を利用する際も贈与金の専用口座を開設するなどの手続きが必要です。

受贈者が30歳に達した時や相続が発生した時点での贈与額の残高は贈与税や相続税の課税対象となります。

夫婦間の住居用不動産贈与の特例

婚姻期間が20年を超えた夫婦であれば、居住用不動産または居住用不動産を取得するための資金の贈与が2,000万円まで非課税とされる特例制度です。

基礎控除も併用可能であるため、最大で2,110万円までが非課税で贈与できます。ただし、制度を利用するためには確定申告が必要です。

もっとも配偶者の遺産相続では1億6,000万円プラス法定相続分まで非課税となる特例制度があるため、現に所有している不動産の登記をわざわざ変更してまで利用したとしても、効果は限定的でしょう。

生活費・教育費は贈与税がかからないケースがある

例えば一人暮らしをして大学に通う子供の授業料を親が負担したとしても、日々の生活費を仕送りしたとしても、基本的に贈与税はかかりません。

扶養義務者が通常必要とされる範囲で負担する家族の生活費などは、そもそも贈与税がかからない財産とされているのがその理由です。

ただし、生活費や教育費として必要な金額を必要な時に拠出する場合に限られるため、贈与されたお金を預金したり不動産などの資産の購入に充てたりした場合には贈与税が課されます。

生前贈与に関するよくある質問

生前贈与では、贈与が認められずに相続税が発生するリスクと、贈与自体に贈与税がかかるリスクが存在します。

よくある質問をチェックして、陥りがちな失敗を回避しましょう。

Q
名義預金は生前贈与とみなされる?

名義預金とは、口座の名義人と実際に口座を管理する人物が異なっている預金口座のことを指します。親が子の名義で口座を開設し、そこに預金をしているケースを想定すると分かりやすいでしょう。

この名義預金に預けられたお金は、あくまでも預金した人の資産として扱われます。つまり、口座に入金しているだけでは贈与が発生したとはみなされません。

仮にその状態で預金者が亡くなった場合には、口座のお金は被相続人の財産として相続税の課税対象となります。

Q
へそくりの生前贈与は否認される?

へそくりのように日々の倹約で貯めたお金の場合はどうでしょうか。この場合は当然のごとく贈与契約書は作成されていないため、生前贈与は発生していないと判断される可能性が高いと言わざるを得ません。

例えば専業主婦で収入のない妻が長年にわたるへそくりで貯蓄したお金があり、その状態で夫が亡くなったとしたら。

夫から妻への生前贈与という証拠が何もない状態のため、夫の財産であると指摘され相続税が課される可能性は極めて高いでしょう。

生前贈与の現金手渡しまとめ

生前贈与を正当な法律行為として成立させるためには、その贈与が第三者が見ても明確に認識できる状態であることが不可欠です。

思いがけない税金がかかることがないようしっかりと知識を身につけましょう。

そのうえで配偶者間や直系尊属からの贈与の特例制度の活用なども考慮しながら、生前贈与を検討するのが得策です。

ABOUT ME
山崎友也
山崎友也
代表取締役
株式会社トライパートナーズ 代表取締役
2011年から税理士紹介サービスを展開。多くの皆様に税理士を紹介してきました。
相続は何度も起こるものではありません。だからこそ正しい知識がないと、トラブルになる可能性を秘めています。大切なことは、徹底的に寄り添える相続専門の税理士に依頼すること。「頼んでよかった」と心から喜んでいただくことが私の生きがいです。まずはお話を聞かせてください。
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