【共有名義】片方死亡の相続はどうなる?手続きの流れと基礎知識
夫婦や親子が「共有」で自宅を所有しているケースは決して珍しくありません。
特に共働きの夫婦では、住宅ローン控除を有効活用するために、あえてペアローンを選択し共有名義とするのもメリットのある手法の一つといえます。
しかしこの共有名義、相続が発生した場合には注意が必要!通常の財産と同様に、共有持分そのものが遺産分割の対象となるからです。
そこで今回の記事では、共有名義の片方が死亡したケースを想定して、相続手続きの流れや知っておくべき基礎知識について、詳しく解説します。
共有名義の片方が死亡したときの相続の流れ
私の自宅は父親と共同で建てた二世帯住宅で、父親と私が2分の1ずつの持ち分を持っています。
父親が亡くなったときには私の名義にしたいのですが、共有者である私が優先的に遺産相続できるのでしょうか?
共有財産であっても、相続が発生した際の基本的な取り扱いは他の相続財産と変わりません。
遺産分割協議などで話し合い、他の共同相続人と分割する対象となります。まずは相続手続きの流れを見ていきましょう。
相続人を確定する
配偶者や子どもなど明確な法定相続人がいる場合、ともすれば相続人の確定は軽視されがちですが、実はとても重要でかつ手間のかかる作業といえます。
なぜならこの行為は、当事者が確認するという意味合いよりも、被相続人の親族関係を全く知らない第三者に対して書面で示す必要があるものだからです。
極端な例を挙げれば、「隠し子がいないか」なども戸籍を辿って調べなければなりません。
遺言書の有無を確認する
被相続人が遺言書を遺していないかを確認することも重要な手続きです。
相続では、被相続人の意思である遺言が法定相続分よりも優先されます。遺贈先として、法定相続人以外の人に財産を贈る旨が記されている可能性もあるでしょう。
遺言には公正証書遺言と自筆証書遺言がありますが、自筆証書遺言の場合には相続人が家庭裁判所で検認を受ける必要があることも覚えておきましょう。
遺産分割協議を行う
共同相続人が全員で相続財産の分割方法について話し合う場が遺産分割協議です。
民法に定められた法定相続分を基礎として、分割割合を検討し各相続人が受け取る財産を特定します。
なお遺産分割協議は、共同相続人全員の合意がなければ成立しません。
相続登記による名義変更手続きを行う
不動産の共有持分を取得した相続人は、登記名義人を変更しなければなりません。
現時点では義務ではないともいえますが、所有権を移転していないと売却などをすることもできないというデメリットがあるため、早めに変更登記をするのが望ましいでしょう。
税務署に申告・納税を行う
遺産分割協議によって取得する相続財産が確定したら、税務署に相続税の申告をしましょう。
ただし、相続財産が基礎控除額以下であれば原則として申告の必要はありません。
また、相続財産に見落としがある可能性も捨てきれません。
相続時精算課税を利用した場合と実際の相続で取得した財産では、評価額の算出方法に違いが生じる点も重要です。
少しでも不安がある場合には、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
共有持分の相続にかかる費用
共有財産の扱いは慎重にした方が良さそうですね。実際に相続する場合、どのような費用がかかるのでしょう?
共有持分であっても「不動産を相続する」という点では単独所有と同様です。かかる費用も変わりません。
相続税
相続財産の総額が基礎控除額を超える場合に課されるのが相続税です。
基礎控除額は以下の計算式で求めることができます。
3,000万円 +( 600万円 × 法定相続人の数)=基礎控除額
税額は、相続や遺贈などで財産を取得した人ごとに遺産分割割合に応じて計算されます。各種の税額控除が適用される場合、それを差し引いた金額が納税額です。
ただし、財産を取得した人が被相続人の配偶者や子供、両親以外の場合には、税額控除を差し引く前の相続税額に20%相当額が加算されることも覚えておきましょう。
登録免許税
不動産を相続した場合には、登記名義人の変更をしなければなりません。その際にかかる税金が登録免許税です。
相続を登記原因とする登録免許税は、不動産の評価額に税率0.4%を掛けた金額となります。
ただし2025年3月31日までの登記申請であれば、「二次相続が発生した際の一次相続」「評価額100万円以下」などの土地の登記が免税とされる特例が適用される可能性があります。
司法書士の報酬
相続登記を司法書士に依頼した場合、それに対する報酬が発生します。
報酬額は不動産の評価額や物件数、相続人の数などによって異なりますので一概には言えませんが、相続登記だけを依頼した場合の報酬は5万円〜8万円程度が多いようです。
ただし、戸籍の収集や法定相続情報一覧図の作成、遺産分割協議書の作成など、一連の相続手続きをすべて依頼した場合などは、10万円を超える報酬が発生するケースも少なくありません。
法定相続人がいない場合はどうなる?
法定相続人がいない場合、相続財産の中に共有のものがあったらどのように扱われるのでしょう?
法定相続人がいない場合の相続財産は最終的には国庫に帰属するのが原則ですが、共有の場合には共有者に帰属する、つまり共有者の所有となります。
共有者に帰属される
法定相続人がいない場合の共有財産の扱いは一般的な相続財産と異なります。
ただしこの場合には、相続人や特別縁故者がいないことを確認しなければなりません。
このため以下の手続きを経た後に、共有者の所有物とされます。
相続財産管理人選任を申し立てる
相続が発生したものの相続人がいない、もしくは分からない場合には、相続財産に法人格が与えられます。
その管理や処分については人の手を介さなければならないため、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てる必要があるのです。
相続財産管理人が相続財産を調査し、債権者や受遺者(遺贈を受けた人)に対し請求の申出をする旨を公告するなどの手続きを経て清算を行います。
特別縁故者へ財産分与が行われる
相続人がいない場合でも、特別縁故者の財産分与が認められる可能性があります。
特別縁故者とは「法定相続人ではないけれど、故人と特別な関係がある人」という意味合いで、内縁関係の家族などが考えられます。
債権者に対する清算や特別縁故者への財産分与など、一連の手続きを終えた段階でなお共有財産が残っている場合には、共有者の持ち物になるという仕組みです。
共有名義の片方が死亡したときの注意点
兄弟の関係は円満なのですが、やはり何らかの対策を立てておいた方がよいのでしょうか?
相続財産の中に共有名義の不動産などがあることが原因で、トラブルが発生する事例は少なくありません。
注意すべき点を確認しておきましょう!
配偶者以外の共有はトラブルが多い
不動産の共有では、配偶者との共有が最も多く見られるパターンですが、配偶者以外の共有に関してはトラブルの発生頻度が高くなる傾向がみられます。
これは、民法に定められた相続順位に起因するものです。
配偶者は常に相続人となりますが、それ以外の相続順位は第1順位が子ども、第2順位が直系尊属、第3順位が兄弟姉妹と定められているからです。
例えば父親Aさんと長男Bさんが同居する自宅を共有していて、Aさんが亡くなった場合を考えてみましょう。
Aさんの持分をBさんが単独で相続することができず、次男Cさんや長女Dさんと分割しなければならない可能性が生じます。
相続手続きの放置はトラブルになる
相続手続きが困難であるからといって、根本的な解決を先送りすることはNGです!
後々の大きなトラブルを招く要因になりかねません。
先に挙げたAさんの相続を例に挙げて見てみましょう。
本来であればAさんの持ち分をBさんがすべて取得したかったのですが、代償分割などの解決策を取らずにAさんの持分をBさんCさんDさんが3分割して共有したとします。
さらにCさんが亡くなり相続が発生した場合、その共有持分がさらに分割されるリスクが生じます。
このように1つの不動産の持分が細分化され関係性の薄い親族に広まった場合、将来的に売却することなどが困難になる可能性が否めません。
住宅ローンが残っている場合は団信を確認する
共有の不動産に住宅ローンの残債がある場合には、団体信用生命保険の適用の有無を確認しましょう。
住宅ローンを利用して不動産を購入する場合には、団信へ加入するのが一般的です。団信に加入していれば、ローンの残債がゼロになる可能性があります。
ただし共有の場合、持分割合に応じて共有者全員が団信に加入するケースや年少の債務者だけが加入するケースなど、金融機関や住宅ローン商品によって扱いがさまざまです。
被相続人の死亡によって保険金が下りるかをしっかりと確認しておきましょう。
離婚した場合は共有を解消しておく
夫婦で共有名義の不動産を購入するケースは少なくないですが、離婚した場合にはできるだけ早期に共有を解消しておくのが望ましいです。
共有財産では、1人の共有者だけでできる行為に制限があり、全員の同意がないと売却や建て替えなどができません。
相続が発生した場合にも相続人には該当しないため、過去の配偶者の親族との共有財産となることで、さらに処分が困難になる可能性が生じます。
夫婦で共有の場合にできるトラブル回避法
不動産を共有している事例の中でも多いのが夫婦での共有です。
基本的に配偶者は法定相続人となる立場ではありますが、必ずしも共有名義の不動産を取得できるとは限りません。
トラブルを回避するためにも、いくつかの対策を講じておくのがよいでしょう。
遺言書を作成しておく
財産の中に共有の不動産などがある場合には、生前に相続先を示しておくことが大切です。
遺言がない場合、相続財産は法定相続分を基本に共同相続人で分割することになりますが、共有財産の持分を共有者が取得できるか否かは遺産分割協議に委ねるしかありません。
遺言に意思を示しておけば、原則として遺言に記載された贈り先が優先されます。
ただし、他の相続人の遺留分には注意が必要です。
生前贈与を検討する
より確実に相続人のトラブルを防ぎ共有者に財産を贈るのであれば、生前贈与を検討するのも有効な手段の一つです。
現金などと同様に、共有持分も贈与の対象とすることができます。
一方で、受贈者側に贈与税の負担が生じる可能性があることを考慮する必要があるでしょう。
共有名義の相続まとめ
不動産の共有自体にはさまざまなメリットがあるものの、こと相続に関しては共有名義が原因で生じるトラブルが少なくありません。
遺言や生前贈与などを活用して本人の意思に基づく遺産分割をする必要性は、共有名義の財産がある場合には一段と高くなると考えた方がよいでしょう。
相続が発生する前に、弁護士や税理士などの専門家に依頼して対策を講じておくこともよい方法です。