生命保険は遺留分の対象になる?原則と例外を徹底解説!
相続が発生したとき、遺産は法定相続分に応じて分割するのが原則です。
では、被相続人が亡くなったことで支払われる「生命保険金」は分割の対象となるのでしょうか?
特定の相続人を受取人とした生命保険に加入しているケースは少なくないでしょう。
場合によっては、他の相続人との間で受け取れる財産の額に大きな違いが生じるかもしれません。
また、配偶者や子どもなどの法定相続人には、最低限の遺産が保証される「遺留分」という仕組みも存在します。
そこで今回の記事では、特定の相続人が生命保険金を受け取った場合の相続財産の扱いや遺留分との関係について、トラブルを防ぐ対策も含めて詳しく解説していきます!
生命保険の死亡保険金は遺留分の対象になる?
妻に先立たれたため、私の生命保険金の受取人を同居している長男にしようと考えています。
ですが、自宅以外に大した財産もないため、長男と次男で相続財産のバランスが取れないことを懸念しています。
何か有効な手立てはありますか?
生命保険金はそもそも民法上の相続財産ではないのですが、お話しの内容から推察すると「遺留分」で兄弟間のトラブルが生じる可能性が否めません。
しっかりと対策を検討する必要がありそうですね。
そもそも遺留分とは?
遺留分とは「兄弟姉妹以外の法定相続人」に認められた権利で、「最低でもこれだけは受け取ることができる」という遺産の割合を示したものです。
遺留分の割合は法定相続分の半分が基本で、直系尊属のみが相続人の場合は法定相続分の3分の1とされています。
被相続人の財産に関しては、遺言書に記すことで贈り先や割合などを被相続人の意思で定めることができますが、これによって遺留分に相当する財産が受け取れなくなった場合には、遺留分侵害額請求をすることができる仕組みになっているのです。
原則として遺留分の対象外
そもそも被相続人を被保険者とする生命保険金は「相続財産」ではなく、受取人の固有の財産とされています。このため原則として遺留分の対象とはされません。
相続に関する知識を持つ人であれば、生命保険金が「みなし相続財産」として扱われることをご存知でしょう。
このことから、「生命保険金は相続財産である」と勘違いしてしまうケースが散見されます。
しかし、「みなし相続財産」というのは民法に定められた相続財産ではなく、あくまでも「相続税の課税対象とする財産」という意味合いです。
このため特定の相続人に財産を多く遺したい場合には、生命保険契約の活用は効果的といえるでしょう。
遺留分の対象になるケース
先ほど「遺留分でトラブルが生じる可能性がある」とおっしゃっていましたが、生命保険金が相続財産でないのであれば問題ないのではないでしょうか?
確かに原則論では生命保険金は相続財産ではありません。ですが先ほどのお話から、この「例外」に当たる可能性があると考えられます。生命保険金が遺留分の対象になるケースを詳しく説明しましょう。
相続財産分割が著しく不公平な場合
生命保険金は遺産分割の対象となる相続財産ではないため、「原則として」遺留分も認められません。
しかし、これはあくまでも原則。
例えば「相続財産が1,000万円で相続人が3人。このうち1人だけが1億円の生命保険金を受け取った」などの場合が想定されるでしょう。
このようなケースでは、生命保険金は「相続人の1人に対する特別受益」として、持ち戻しの対象になる可能性が生じます。
保険金の受取人が被相続人となっていた場合
先ほど保険金は「受取人固有の財産」と説明しましたが、では被相続人本人が保険金の受取人となっていた場合はどうでしょう?
この場合は保険金を受領する権利そのものが被相続人の財産ですから、保険金も相続財産として扱われます。
つまり、遺産分割の対象となる相続財産に当たるのです。
そして、相続財産になりますから当然に遺留分の対象にも該当します。
生命保険を含めた遺留分の計算方法
死亡保険金が遺留分の対象となった場合の計算方法に関しては、分かりやすい判例が存在します。
この事例では、特定の相続人だけが受け取った生命保険金は「特別受益の持ち戻し」に準じた取り扱いで遺留分を算定する基礎となる相続財産に加えられました。
前述した通り、遺留分の割合は配偶者と子どもは法定相続分の半分、直系尊属のみが相続人の場合は3分の1とされています。
長男と次男の2人が相続人の場合を想定して、具体的な計算式を見てみましょう。
遺産が500万円、長男が受け取った生命保険金が5,000万円だったと仮定します。
この配分が著しく不公平であると認められ、特別受益の持ち戻しが生じた場合、遺産の金額は5,500万円で計算されます。
500万円(遺産総額)+5,000万円(生命保険金)=5,500万円
法定相続分に従えば、子どもだけが相続人の場合は2分の1ずつを相続することになります。
遺留分は法定相続分の2分の1ですから、次男は相続財産の4分の1、1,375万円を遺留分として取得できる計算が成り立ちます。
5,500万円÷2(法定相続分割合)÷2(遺留分割合)=1,375万円
生前からできる相続対策
遺産相続をめぐるトラブルで家族がもめるようなことは避けたいのですが、何か対策を講じることはできるのでしょうか?
考えられる方法はいくつかありますが、いずれも万全の対策とは言い切れません。複数の手法をあわせて検討するのが望ましいでしょう。
遺留分の放棄
相続財産が分割の難しい財産、例えば不動産であるような場合、特定の相続人だけに遺贈することが望ましいこともあるでしょう。
しかし、このような遺贈が他の相続人の遺留分を侵害してしまうケースも発生しがちです。
そのような場合、遺留分の放棄に同意してもらうという手段が考えられます。
ただし、相続開始前に遺留分を放棄してもらうための手続きは厳格で、家庭裁判所の許可を得なければなりません。
過去の判例などをもとに許可の判断基準を考察すると、放棄をする本人の意思や合理性などのほか、「代償が支払われているか」という点も重要なポイントに挙げられます。
この点から考えると「遺留分に相当する生命保険金の受取人を、不動産などの相続財産を取得できない相続人にする」などの対策が考えられます。
生前贈与
特定の相続人に対して多くの財産を譲りたいという希望があるのであれば、生前贈与も効果的な手法です。
生前贈与で遺留分の対象となるのは、原則として相続開始前1年間に行われたものと規定されています。
ただし、贈与する側・される側の双方が「遺留分を侵害する」と知りながら贈与した場合には、1年以上前の贈与であっても遺留分侵害額請求権の対象となります。
また生前贈与も特別受益とみなされる可能性があるため、この場合には相続が開始される10年以内の贈与が持ち戻しの対象です。
遺言書の作成
相続でのトラブルを避けるための方法はさまざまですが、最も大切なことは生前に遺言書を作成しておくことです。
遺産分割の方法や割合に関して被相続人の意思を反映させるには遺言書が不可欠といえます。
遺言書がない場合には、法定相続分に応じた割合で遺産分割されるのが原則だからです。
生命保険の遺留分まとめ
生命保険は法律上の相続財産には該当しませんが、遺産を受け取る相続人にとってみれば「特定の相続人だけが多くの財産を取得する」という事実に変わりはありません!
このことをしっかりと認識しておく必要があるでしょう。
一方で生命保険は、住宅など「分割しにくい相続財産」によって生じる遺産のアンバランスを解消する手段として有効な方法であることは間違いありません。
このような生命保険をうまく活用したり、相続のトラブルを防止するためには専門的な知識が不可欠です。
生前から弁護士や税理士などの専門家に相談することで、有効な対策を検討しておきましょう。